中国山東省青島市郊外のホテルで、日々変わり行く中国を観察している現地滞在のフリーライターがいる。福岡と青島を定期的に行き来している彼に、リアルな中国の今をレポートしてもらった。

　中国では四川大地震からもうすぐ３年を迎えようとしている。被災者約4,600万人、死者・行方不明者約９万人とされる大災害だった。地震直後は交通手段が寸断され、被災地域が広範囲にわたったため、山間部には救援物資もほとんど届かなかったそうだ。なかでも、耐震基準の甘さからか日本では避難所となるべき学校の校舎がほとんど倒壊してしまい、子どもの犠牲者が多く出たことも問題となった。そして、子どもたちを置き去りにして、真っ先に逃げ出した教師がいたという、大人たちのモラルの低さも露呈した。

　地震以後は、中国政府による大規模な財政支出により、基幹道路やトンネルなどインフララインの建設はほぼ完了しつつあるようだ。成都などの都市部については、いち早く復旧が進み、災害の面影は見受けられないほど復興を果たしている。

　しかし一方で、山間部ではむき出しの山肌が地震の大きさを物語り、倒壊した家屋もそのまま放置されているところも多い。私たちが四川省の山間部にさしかかった時、同行した中国人スタッフが車を止め、山あいの湖に向かって静かに手を合わせた。理由を聞くと「この湖の底には、２～３万人の人が眠っていると思います」という。もともとこの場所には湖はなく、大地震の前は多くの集落があったそうだ。地震により村ごと土砂に埋まり、川がせき止められて湖になったという。
　さらに、彼は「四川大地震の死亡者は約９万人といわれていますが、実際はその２倍以上も亡くなっているようです。市町村ごと土砂に埋まり実態がよくわからないのです」という。

　四川の山間部の湖底には今も、この世に生をうけたにも関わらず、生きた軌跡も、亡くなった事実もすべて封印されてしまった、多くの人たちが眠っている。その人たちの残像なのか、水面に映る土色の山肌が陽炎のように見えた。

【杉本 尚大】

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